竣工/開院して8年余り、計画から既に10年程経過した、「自然分娩」のお産の家である。そこはいくつもの候補の中から選ばれた、施主にとっては理想の場所で、その名のとおり水が豊富で広大な栗林に面した100坪程の敷地であった。(その後栗林は低層集合住宅として開発されている)
母親の産む力と赤ちゃんの生まれる力に最大限信頼を置き医療的介入を極力抑えたお産を目指す医師は、その空間/環境として、大工棟梁のつくる木造の建屋を絶対条件として計画は進められた。それは、建築的空間性と同時に街の中の佇まいとしても、住宅地の普通の家であり、むしろ門構えや表札などの目立たないことが必要であった。
建築は在来木造2階建て、南に開く「コの字」型プランで、南側に囲んだ庭に対して2層の列柱付ガラススクリーンをもった、家中から光と緑陰を十分に感じられる構造となった。室内も全て木質系の建具・家具と白い漆喰の塗り壁である。また、分娩室や入院室、デイルーム、診察室などの設えも、徹底して伝統的な木造住宅の居住性が追及された。
建築に至るまでの医師のこだわりは、OPEN後も変わることなく持続し、常に使い勝手やアメニティ追及の改善と補強のハウスキープがされているが、当初の建築のイメージや空間の質が損なわれず、むしろブラッシュアップされて行くのを見るのは、建築家冥利につきると感じている。
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