葱畑や農家集落の田園風景をもつ平坦な敷地は、将門や頼朝の「坂東」の面影をかろうじて想起させなくはないものの、TX(つくばエキスプレス)沿線の首都圏都市化の新しい周縁の様相を示しはじめている。
「自然分娩のお産の家と婦人科ホスピスの合築」という稀有のプログラムへの施主と私たちの応答は、
1.中庭型平面(住宅も加えると大小2つの「ロの字」)=planning
2.大きく複雑な屋根を支える木造架構と光=landscape/space 3.清潔で温かい素材と造作、しつらえ=details
である。それらは、茨城県守谷における周産期医療から婦人科終末ケアまで「ひとつながりのいのちの営み」を丸ごと引き受けようとする「地域の『総合医』としての施主の医師と助産師の活動の場」としての、また妊婦や患者、その家族の安心な「もうひとつの家」を体現する建築としての構造であり、表現でもある。
ところで『天地玄黄』とは、中国南朝時代の周興嗣の長詩『千字文』の最初の4文字であり、天は黒色で地は黄色であるという宇宙観を表しているが、厚さ0.7ミリ、暗灰色の亜鉛板と(テレジアンイエローよりやや濃い目の)黄色の土壁からなるこの建物が、「守谷の地域医療の『天地玄黄』」として根付くことを願っている。 |